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2023.12.19

 Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters を読みました。KADOKAWAが刊行停止した翻訳本「あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇」の原著です。

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 自分は翻訳本について刊行すべきでないという立場でしたが、読むきっかけとしては、Xで「読んでから批判しろ」的な投稿が大量に流れてきたのでなら読んでみるかという気になりました。まぁ全然ヘイト本だったんですが…。この原著を読んでから云々〜と言うのはかなり暴力的だなと思います。原著がKindleで売ってるから自分で読めばいいと思う。また、これは読んだからこそ言えるのですが、読む必要はありません。

 本書を通底するのは急速発症性性別違和(Rapid-onset gender dysphoria、以下ROGD)を根拠とした、トランスジェンダー当事者(主にトランス男性)に対する親の権利(パターナリズム)の徹底です。ROGDについては今回の刊行停止騒動があってからWikipediaに日本語のページができましたね。

 ROGDを簡単に説明すると思春期になって急に性別違和を発症(論文の表現を引用しています)するのは、ソーシャルメディア/インターネットの使用量が増加したか、1人または複数の友人がトランスジェンダーになった友人グループに属したかのいずれか、もしくは両方に原因があるのではないかという仮説です。ROGDついてはさまざまな批判が寄せられています。調べたらすぐわかることですが、簡単に書いてみます。

  • 実証研究がなされておらず、統計結果のみに基づいていること
  • 当事者でなく、当事者の親のみに質問調査を実施していること
  • 質問調査を実施したWebサイト(4thWaveNow,Transgender Trend,Youth Trans Critical Professionals)がいずれも反トランスジェンダーコミュニティであること

 また、2021年に公共医療、科学の発展に努める団体CAAPSはROGDを臨床および診断に用いることをやめるよう声明を発表しています

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 さらにより広範な対象や当事者への調査、また分析研究が実施されましたが、ROGDを支持できるような結果は見つかっていないようです。

 本書はROGDを根拠としトランス男性の両親のインタビューを通して思春期の医学的な性別移行(主にホルモン治療)へ反対する。といった試みなのですが、医学的リスクの生ずる責任をインフルエンサーやセラピストの責任かのように書いていたり、トランス男性をshe/herと意図的に表記したり(ミスジェンダリング)、ジェンダー・セルフID制をトランスジェンダリズム(性自認至上主義、トランスヘイターがよく使う表現と自分は認識しています)として批判したり、ノンバイナリーの存在を無視していたりとヘイトのお手本のような表現が全体を通じて散見されます。

 もう一度書きますが、読まない方がいいと思います。ROGDについて詳しく知りたいのであれば、元の論文や追加の検証研究を読めばいいだけです。医学的性別移行のリスクについても同様です。コミュニティ内でも議論されている複雑な問題を、ヘイトを持って語る本書で学ぶ必要はないと思います。それよりトランスジェンダー入門読んだ方がいいですよ。

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