作成 2025/9/9
更新 2025/9/9

那覇港湾施設代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書への意見書

 方法書はこちらから縦覧可能。

移設を伴わない返還の検討要請

 方法書は事業の種類を公有水面の埋立てとし、実施区域・規模(約64ha)を特定し返還のみの選択肢を事実上排除している。これは配慮書段階で本来求められる複数案の比較(位置・規模・配置を含む)の趣旨に反する。1996年SACO最終報告は「浦添埠頭地区への移設と結び付けた返還」をうたっているが、これは二国間の政策合意であり、環境面・地域計画面での最適解を永久に拘束する法規範ではない。環境影響や社会的費用の高騰が見込まれる現況の下、返還のみ(移設を伴わない返還)の妥当性を国内手続で再検討すべき。
 IPCC AR6等が指摘する海面上昇と極端気象(台風・高潮)の増大は、日本沿岸、とくに琉球弧の外洋影響下で顕著である。新たな長大防波堤・大面積埋立地を今後半世紀以上にわたって保全・補修することは、気候適応・財政負担のリスクを増幅する。既存用地の返還による復元・低影響利用の方が適応策として合理的である。
 2022~2023年にかけて「位置・形状」について関係機関で調整・合意したとされているが、事業全体費用・ライフサイクルコスト・代替案比較の公開は限定的。返還のみのケースも含めた費用対効果・リスク評価の全面開示を行わずに移設を既定路線化するのは、説明責任を欠いている。

「那覇港湾施設代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書〔要約書〕」への意見

以下該当箇所について、検討中・調整中といった記述に留めるのではなく、複数のシナリオを用意したうえで影響予測を行うべきである。とくに埋立て・海中仮置きは、資材・発生土の搬入経路や仮置き管理の差で濁り・廃棄物リスクが大きく変動するため、詳細計画と監視の具体化が必要。
  • 2-4/PDF p.9(対象事業の規模等の箇所に「付帯施設(橋梁)、浚渫、作業ヤードの規模等は検討中」)。
  • 6-9/PDF p.326(作業ヤード〔埋立て15ha・海中仮置き〕はいずれも「関係機関と調整中」、「調査地点等を変更する可能性」)。
以下該当箇所について、慶良間など外洋性の場を対照にすると、水理・地形が異なり系統誤差の懸念が生じる。近接かつ条件似ている多重な対照設定を検討すべき。
  • 6-60/PDF p.377(表6.2.10-2(7)「対照海域調査地点の設定根拠(サンゴ類)」)。
以下該当箇所についてフォトモンタージュ等で予測するとしているが、眺望点/景観資源の選定基準と住民参加の反映が結果に大きく影響する。基準公開と第三者レビューを実施すべきである。
  • 6-81/PDF p.398(表6.2.15-1(2)の「予測の基本的な手法」にフォトモンタージュ法等を明記)。

「第6章 対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法」への意見

 長期間にわたる工期(少なくとも9年)内での環境評価に関する運用が数値化されていない。濁度が閾値を超えた場合は作業を停止する、工事騒音がXdBを超えた場合は工法を変更するなどといった、定量トリガーによる運用がなされるべき。そのためには数値基準の明文化が必要である。
 多くの項目で「標準的な手法」を選定と明記。浦添西海岸固有の水理・海砂動態・群集構造に合わせたローカライズが必要である

方法書全体への指摘

 方法書の評価項目は、大気・騒音・水環境・生態系・景観・廃棄物・温室効果ガス等に整理されているが、港湾運用に付随して通常想定されるリスク(航行安全・船舶交通、船舶・荷役に伴う騒音・照明、油濁・化学物質流出時の拡散、維持浚渫に伴う濁り・底質再浮遊、港内交通増加による累積影響 など)を独立の評価項目として位置づけておらず、要約書・第6章目次に列挙された選定項目(6.2.1~6.2.19)を見ても、「航行・運用安全」や「船舶運用由来影響」等の明示がない(要約書・第6章目次 6.2.1~6.2.19参照)。
 また、本事業の対象事業の種類を「公有水面の埋立て」とする記載、並びに付帯施設(橋梁)・浚渫・作業ヤードの規模等が「検討中」とされている現状から、港湾運用段階の具体的条件が方法書段階で十分に提示されていないことが読み取れる(要約書 2.2.1「公有水面の埋立て」、2.2.3「規模等は検討中」)。
 さらに、主務大臣意見への事業者見解では、「準備書において予測・評価を行った上で所要の環境保全措置を講じる」「事後調査の実施・結果の公表に努める」等の枠組みは示されているものの、運用段階における定量的な管理トリガー(停止基準・工法切替基準・公開頻度等)が具体化されていない(第5章 表5.1-1「(3)環境保全措置の検討」「(6)事後調査等」等)