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2023.12.22

 年末の嬉しい話。今後も頑張って制作を続けたいです。来年はアルバムを出せると思います。

 次は最近読んだ文章について、今年はいろんな本を読んだ気がしますね。それ以上に買ってるので積みまくっているんですが…。

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 世界2023年2月号に載っている大衆的検閲が気になっていたので読みました。2022年11月にインドネシア共和国ジャカルタで開催された第33回国際出版会議で小説家の桐野夏生氏が行った基調講演の内容だそうです。興味を持った背景としてはKADOKAWAの刊行停止の件 で大衆的検閲でないかといったツイートが散見されたからです。そもそも公権力が表現物を精査して取り締まりを行うのが検閲なので大衆は公権力にあたるのか?という疑問や刊行停止を決定したのは出版社自身ではないかといった反論が浮かびますが、一旦置いときます。

 原文の主張としては、朝日新聞の記事を前提に。アルゴリズムによって「挑発的で質の悪い投稿」が大量に拡散された結果、大衆の批判精神が衰え、正義/悪、フェミニスト/アンチフェミニスト、右翼/左翼といった二元論によって分断が起こっていると主張しています。分断によって醸造された不寛容な精神は「正しくない」とする表現活動(原文では主に小説)へ執拗な誹謗中傷を行い表現の自由を脅かしている。(これが大衆的検閲)。一冊の本がデジタル化されてただのテキストコンテンツになった途端、文脈を無視されて断罪されるようになった。このような風潮へ対抗するためには作家と出版社は強い絆を持つ必要があるとのこと。詳しくは世界2023年2月号を読んでほしい。4〜5ページなのですぐ読めます。

 文中の朝日新聞のニュースとはこれだと思います。一応リンクを貼っておきます。有料記事部分にFrances Haugen氏によるFacebookの内部文書から引いてきた表現があります。

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 大衆的検閲で言及されている「挑発的で質の低い投稿」とはどういったものなのか、記事中では「怒りのリアクションがついた過激な投稿」とされていますが、より詳しく知るため、Frances Haugen氏が暴露した内部文書をもとに構成された、The Wall Street Journal のThe Facebook Fileという一連のシリーズ記事を軽く読んでみることにしました。The Wall Street Journal、今なら最初の12ヶ月が月額2ドルです。解約を忘れないようにしないと。

 該当する章はこれです。facebookは1いいね1ポイント、コメントやリアクション1つにつき5ポイント、そしてポイントが高い投稿ほどニュースフィードに表示されるようになっていたようで、結果的に物議を醸すテーマが投稿されると怒りリアクションが大量に使用されるため、そういった投稿ほどフィードに表示されやすくなっていたとのこと。BuzzfeedのCEOからこういったアルゴリズムがもたらす分裂についてFacebookへ指摘があったようです。

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 SNSによる集団ごとの分断は深まっているという実感はあります。フィルターバブルやエコーチェンバーといったインターネット上の情報流通の特徴も影響しているでしょう。「大衆的検閲」を生み出す原因について疑問を挟む余地はありません。

 一方で出版に携わる人々や作家自身がSNSの分断に影響される危険性については何も触れていません。SNSの影響力は強大であることを指摘しつつも出版社と作家はまるで関係ないかのような態度には疑問があります。おそらく、大衆的検閲という言葉には読み手/書き手の二元論が前提にあります。多くの人が読み手であり書き手である現実を無視して、流通というボーダーを引き作家と出版社の神秘化を試みているように思えます。

 最近だと作家というよりライター(でも著作もあるし作家か?)ですが、以下の竹田ダニエル氏の記事とその後の釈明?ツイートがいわゆる「不寛容な精神」に陥った書き手を体現していると思います。

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 SNSのタイムラインから観測した事実をもとに所在不明の「普通の結婚観」を否定し、結婚を選択した人々を「他人まかせの幸せにすがっている」と断定し、自分の考えるリベラル像やジェンダー観を押しつける。これこそSNSによって引き起こされた「不寛容な精神」だと思います。さらにいえばこの記事こそ「挑発的で質の低い投稿」でもあります。竹田氏の関連ツイートを見てもSNSの分断から作家が逃れられる保証はなさそうです。